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第三話

last update Date de publication: 2026-01-30 17:19:16

 七月、初の期末試験が近づく。未知の専門科目に戸惑う僕に、先輩の久美子さんたちから「過去問のネットワーク」という大学特有の攻略法を伝授された。部室では就活スーツのポリスさんが人気漫画のセリフで「さらば」と去り、留年危機のブラザーさんや、夢を追うシュンさんの将来が語られるなど、四年の先輩たちの学生生活の終わりと現実が交錯していた。

 試験本番、僕は過去問を頼りに論述問題に挑むが、唯一、数学だけは絶望的だった。最初から理解を諦め、授業中の「寝ていないふり」を極めていた僕は、白紙に近い答案を前に来年は先輩に話を聞いて選択する授業をきちんと考えて決めようと誓った。手応えのないまま「優・良・可・不可」の評価に委ねる試験期間を終え、長い夏休みへと足を踏み出した。

 大学生活最初の夏休み。宿題のない完全な自由を前に、僕は携帯電話を手に入れる資金を作るため、アルバイト探しを開始した。当初は気楽に考えていたが、初めて書く履歴書の「志望動機」や「長所」といった項目に、自分を見つめ直す難しさを痛感する。最初に挑んだ古本屋の面接では、本好きをアピールするも不採用。続く回転寿司店では、店長がバックヤードで女性と不適切なほど密着しているという衝撃的な光景を目の当たりにする。その無節操な姿に呆れた僕は、投げやりな態度で面接に臨み、当然の結果として不採用となった。世の中の不透明な人間関係に辟易しつつも、彼は生活圏内にある「コンビニ24」への応募を決める。

 五度目の面接で採用を勝ち取った僕は、期待と緊張を胸に初出勤を迎えた。渡された赤い制服に「研修中」のバッジをつけ、先輩店員の篠原からレジ打ちや接客、品出しの基礎を学ぶ。特に印象的だったのは、単なる作業ではない「商品の見せ方」だった。品数が減った弁当棚を上段にまとめることで、売れ残り感を消し、充実感を演出する「フェイスアップ」の技法は、効率を重んじてきた僕にとって新鮮な驚きだった。また、立ち読み客を掃除でさりげなく移動させる手法を教わった際には、いまでも「立ち読みをする側」の自分を思い出し、苦笑する場面もあった。

 研修期間中、慣れないレジ操作や検品作業に追われながらも、僕は着実に仕事を覚えていく。一時間の労働が「パン十個分」の価値に換算されるという労働の重みを実感し、無駄遣いを自制する自律心も芽生え始めていた。一ヶ月が過ぎ、ついに手にした初給料。ATMの画面に印字された「コンビニ24 8ガツブンキユウヨ」の文字は、お年玉や小遣いとは全く異なる重みを持っていた。

 僕は初めて自分で稼いだお金を、単なる自分の娯楽のためではなく、家族への感謝として使うことを決意する。最初は「自分で使いなさい」と遠慮した両親だったが、「一生に一度の初任給の機会」という言葉で押し切り、日曜日、渡辺家の食卓には出前の寿司が並んだ。かつては受動的に与えられるだけだった僕だが、自らの労働の対価で家族をもてなすことができた。「ありがとう」と家族全員から感謝された瞬間、こそばゆい照れ臭さと共に、確かな自己の成長を実感した。

 演劇研究会の活動が休止し、日常に埋没しそうになっていた夏。アルバイトという新たな挑戦を通じて、僕は社会との接点を持ち、自立への第一歩を刻んだ。

 さて。僕が家族に寿司をごちそうする一週間ほど前のことだ。八月末、大学の前期試験の成績発表が行われたので、久しぶりに大学へ行くことにした。学生課で照会すると、数学だけ不可で、それ以外の履修科目は可以上の成績で単位をもらうことができていた。数学が不可なのは予想通りだったのでとくにショックは受けなかった。

 せっかくなので部室に顔を出してみることにする。大学生協があいていたのでチョコを買ってサークル棟に向かう。夏休みになってからまだ一ヶ月しかたっていないが、建物をみると懐かしい感じがする。一階の管理人に声をかけて部室の鍵を貸し出してもらう。誰もいないようだ。

 鍵をあけて誰もいない部室の椅子に座り、チョコを食べながらしばらく漫画を読んでいた。すると、ガチャリとドアが開いた。誰だろう。

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  • 僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 続編   第二話

     本番当日、僕は授業中も落ち着かないほどの高揚感に包まれていた。昼休みの部室では、同期の松本(ガジン)が実は二浪の成人だと知り驚愕する。平穏な日常を望んでいたはずの僕だったが、何が起こるかわからない日常の交流が心地よく感じられるほど、部は僕にとって大切な居場所になっていた。本番直前、僕は気恥ずかしさを抱えつつも、同じ一年生の橋本さんを「裕子ちゃん」と名前で呼ぶ。そんな甘酸っぱいやり取りや、舞台裏での佐々木先輩の手伝いを通じ、僕は本番前の高揚感に浮かされて授業をサボり、自分の時間を舞台に捧げることを決める。 迎えた開演。僕はサイドスポット操作という重責を担い、暗闇の中でスタンバイする。上演さ

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     僕は高校卒業を間近に控えた二月下旬、父とともに第一志望の聖北学院大学の合格発表へ向かっていた。両親の期待に応えられず私立を志望したことに後ろめたさを感じ、独学で受験勉強を続けてきたが、掲示板に自分の番号を見つけ、深い安堵と喜びを感じた。合格発表の後、入学までの時間を読書に費やし、穏やかな休息を過ごした。四月に入り大学生活が始まると、僕は効率的に単位を取得する計画を立て、広大なキャンパスと自由な校風に解放感を感じていた。僕が心理学科を選んだ理由は、主体性がなく周囲に流されがちな自分を変えたいという切実な願いからだった。 そんな中、講義でたまたま隣り合った松本雅人からサークル見学に誘われる。

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